【3519】 ○ 遠山 美都男/関 幸彦/山本 博文 『人事の日本史 (2021/08 朝日新書)⦅(2008/03 新潮文庫)⦆ ★★★★

「●日本史」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●江戸時代」【786】 阿部 善雄 『目明し金十郎の生涯
「●や 山本博文」の インデックッスへ 

日本的人事の歴史的ルーツを探る。現代に通じるところがあって面白かった。

人事の日本史 (朝日新書)01.jpg人事の日本史 3.jpg
人事の日本史』['05年/毎日新聞社]『人事の日本史 (新潮文庫 や 51-51)』['08年]『日本史から学ぶ「人事」の教訓』['13年/宝島社]
人事の日本史 (朝日新書) 』['21年]

 本書は、経済誌「エコノミスト」に2003年から2004年にかけて連載されたものが、連載終了後の2005年に毎日新聞社から単行本として刊行され、さらに2008年に新潮文庫に収められものを新書化したものです(その間 2013年に、テーマ別に大幅に改訂し『日本史から学ぶ「人事」の教訓』として宝島社より単行本として刊行されているが、本書は新潮文庫版を底本として誤字や誤記を修正したものである)。

 3人のが歴史学者が、日本史を古代・中世・戦国・近世の4章にわたって振り返り、「人事」の面から、①歴史上重要な意味を持つ人事はどのように決まったか、②古人は人事をどう考え行動したか、③日本史に貫通するに日本的人事の論理はあるか、の3つの観点から追究したものです。

聖徳太子.jpg 古代編ではまず、聖徳太子・厩戸皇子は抜擢人事の本邦第一号であったとし、その背景には、推古天皇が実力主義の人事を行ったことがあるとしています。冠位十二階によって、我が国で初めて「人事権」と呼ぶべきものが成立したと言えるとし、服務規程とも言うべき憲法十七条の原型も、この時代に制定されされた可能性があるとしています。

 人事が論功行賞の色合いを強めたのは大化の改新以降の孝徳天皇の代であり、クーデター実行に貢献した豪族らへの成功報酬的役割を果たしたが、豪族たちを初めて本格的に「能力評価」で選別・再編したという点では、「人事」の日本史上、画期的な変革だったとしています。

天武天皇.jpg 天武天皇のもと、律令制が整備される中で、「官僚」の勤務評定(考課)や昇進はどのように行われたかも紹介されていて、考課要素である「功過行能」の「功過」は職務遂行状況であり、「行能」は行状と技能であるとのことで、今で言う人事考課の3要素(成績・情意・能力)または2要素(業績評価・行動評価(コンピテンシー評価))と似ているのが興味深いです。

菅原道真.jpg 外交使節・遣唐使の選抜の決め手は、能力よりも「和やかに話し合える」性格が決め手だったとのことで、これも今の時代の採用面接に通じるところがあります。894年に第20次件遣唐使を拝命した菅原道真が、その無益を主張して白紙に戻したのを思い出しました。学者から大臣になった菅原道真の失脚の原因は、他の「学閥」からの嫉妬や攻撃だったのではないかとしています。

源頼朝.jpg源義経.jpg 中世編では、平清盛のバランス感覚と先見性(共に今でもリーダーの要件か)、源頼朝の人心掌握の巧みさ(部下一人ひとりに「お前だけが頼りだ」と囁いていたそうだ)が取り上げられていて、それに比べ弟・源義経は、組織の一員としての自覚が欠け、個人プレーの人だったとしています。

徳川吉宗2.jpg 下って近世・江戸時代では、8代将軍・徳川吉宗は、「足高制」という「役職手当」を創設して人事を活性化したとのこと、田沼意次失脚後に権力者となった松平定信は、賄賂やコネでなく人柄や能力を重視したが、時代劇の鬼平こと火付盗賊改・長谷川平蔵については、能力は認めていたが「山師」的人物と見なして評価しておらず、平蔵は結局それ以上の出世はできなかったとのことです(上司とそりが合わなくてはどうしようもない、というのは今も同じか)。

 武家政権の担い手らは、朝廷から授かる官位と幕府内の役職を持っていた(徳川家康ならば「征夷大将軍」と「将軍」)というのが、今の会社組織の等級と役職という二重身分と同じであるというのが興味深いです。最初に位があって、それに役職がつくため、ある等級に達しないと、ある役職にもつけないというのは、まさに律令制における「官位相当制」であり、人事考課もそうですが、いろいろな意味で、日本的人事のルーツは律令制の時代にあるのだと思いました。

山本博文2.jpg 日本的人事の歴史的ルーツを探る、と言うか、別に大上段に構える必要もないのかもしれませんが、いろいろと現代に通じるところがあって面白かったです。著者の一人、山本博文氏は、Eテレの「先人たちの底力 知恵泉」などテレビでも活躍していましたが、'20年3月に63歳で亡くなっているのが惜しまれます。

山本博文 氏

Eテレ「先人たちの底力 知恵泉」
山本博文 eテレ 知恵泉.jpg山本 博文(東京大学史料編纂所 教授)(1957-2020/63歳没)
1990年、『幕藩制の成立と日本近世の国制』(校倉書房)により、東京大学より文学博士の学位を授与。1991年、『江戸お留守居役の日記』(読売新聞社)により第40回日本エッセイストクラブ賞受賞。江戸幕府の残した史料の外、日本国内の大名家史料を調査することによって、幕府政治の動きや外交政策における為政者の意図を明らかにしてきた。近年は、殉死や敵討ちなどを素材に武士身分に属する者たちの心性(mentality)の究明を主な課題としている。主な著書に、『徳川将軍と天皇』(中央公論新社)、『切腹』(光文社)、『江戸時代の国家・法・社会』(校倉書房)、『男の嫉妬』(筑摩書房)、『徳川将軍家の結婚』(文藝春秋社)『日本史の一級史料』(光文社)などがある。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1